トランプ大統領との関税交渉が決着しました。
15%の関税と5500億ドル(約80兆円)の投資。

まだ細かい部分は見えていなものの、現段階で「政府しっかりしろよ!」とか、「なぜこんなに不利な条件をのんだのか」と憤慨している人もいます。

一方で、株価は上昇し、トヨタの資産価値は1日で5兆円も増えましたし、翌日の株価は大きく上がりました。

これを見て、なぜ?と思っている方も多いようです。

ということで今回は、15%の関税がなぜ評価されているかを解説していきます。

5500億ドル(約80兆円)の投資については、別の記事で解説しますね。

関税とは?

まずは関税ですね。

関税とは、商品を輸出するときに相手国が課す税金のことです。

海外通販をしたことのある方なら分かるかと思います。海外から個人輸入した場合、購入者である私達が、日本に対して関税を払います。あれと仕組みはまったく一緒です。

日本の企業がアメリカに輸出したとき、アメリカは関税を課します。誰が払うのかと言えば、基本的には輸入した側、つまりアメリカ側の企業(業者)が払います。

日本側が払わなくてよいなら、問題ないんじゃないの? と考える方もいるかもそれませんが、これがなかなかそうはいきません。

なぜなら、関税を払うのはアメリカ側の企業ですが、その関税分は商品代金に転嫁されます。こうなると、購入者側からみれば、単純な値上がりであり、「日本の商品が高いなら他のものを探そう」となるので、周りに回って、日本企業に不利になるということです。

それを避けるため、商品価格を下げたり、関税を日本側で負担するところもあるのです。

関税15%は損なのか?

さて本題です。

トランプ大統領とディールで、15%の関税をかけることで決着しました。
これはは確かに高い。

ですが、市場の評価は高く、その証拠に株価が爆上がりしたのです。

その理由はなんでしょうか?

① 関税率の変遷から見てみる

トランプ大統領はもともと「日本には24%の関税を課す」と発表した後、「25%」に変更していました。正式な発表でないものも含めれば、30%と言ったこともあります。これが15%に引き下げられたのですから、かなりの“下げ幅”となります。

「でも・・・」と納得しない人もいるでしょう。分かります。分かりますよ。

でも、相手はトランプ大統領。ブラジルは、クーデターを企てた罪などで起訴された前大統領のボルソナロ氏の裁判を、「行うべきではない」と主張して、貿易黒字なのに関税を50%にした人です。そして世界中のあらゆる国に、高関税をちらつかせています。

そんな人に、年間712億ドル(2024年)もの貿易黒字がある国が、10%もの妥協を引き出したわけです。これは明らかな粘り勝ちなんですね。

ちなみに、この15%は、米国と貿易黒字国の交渉では今のところ最低の数字です。

② 日本経済へのインパクト

いろいろなシンクタンクなどが関税が日本に及ぼす影響を発表しています。大和総研によると、関税15%なら、GDPを0.5%〜1.1%程度押し下げると見込まれています。

結局マイナスなんかい!と思われそうですが、でも、25%の関税ならもっとなら下がっていて、景気後退懸念もあったのです。15%ならそこまでひどくはならない、ということで高い評価を得ました。最悪なのは、売れないことですから。

しかも、海外取引では、為替の影響を受けます。そのため、ある程度の幅を持たせて価格を設定しています。それも考えれば、輸出数量が減らなければ、ある程度は吸収できてしまうのです。

ちなみに、為替に関しては日本は、一貫して「市場に任せるべき」としていたそうです。ここも大きなポイントなので、いつか解説したいと思います。

米国の貿易赤字国はどこ? 日本は何位?

ところで、アメリカが貿易赤字(相手国にとっては黒字)の国ってそんなに多いのでしょうか?

ということで、調べてみました。

上位の貿易赤字国(2024年実績)

  1. 中国:約 295 0億ドルの赤字
  2. メキシコ:約 1720億ドルの赤字
  3. 欧州連合合計(主にドイツ、アイルランドなど):約 2350億ドルの赤字
  4. ベトナム:約 1230億ドルの赤字
  5. 台湾:約 740億ドルの赤字
  6. ドイツ:約 840億ドルの赤字(EU内でも最大)
  7. 日本:約 712億ドルの赤字
  8. カナダ:約 630〜633億ドルの赤字
  9. インド:約 730〜771億ドルの赤字(推定)

(数値の参照元が国によって違うので、多少のブレがある可能性があります)

日本-米国間の貿易実績

せっかくなので、日本の貿易実績も見てみましょう。

2024年通年でみると、貿易赤字は↓、黒字は↑

米国商務省(Census Bureau)のデータによれば、2024年の

米国からの輸入額は約1,483億ドル
米国への輸出額は約797億ドル

結果として、米国側は日本との商品貿易で約685億ドルの赤字(=日本の黒字)となっています。上のランキングと差があるじゃんといいたいのも分かりますが、対象範囲がちょっと違うので、そこは大目にいただければと思います。

そして関税は2024年よりも増えましたが、2025年も引き続き黒字傾向です。

と言いますか、2025年1〜5月の結果はすでに出ていて、月ごとの黒字幅は数十億ドル(例:1月 –68億ドル、5月 –49億ドルなど)となっているので、よっぽどのことがないと黒字ですよね。

とはいえ、本当に関税が25%だったら、もしかしたらもしかしたかもしれなかったんですよ!

なぜ日本は黒字なのか?

では、なぜ日本は黒字なのでしょうか?

ひとつは輸出構造にあります。日本がアメリカに輸出しているのは、自動車、部品、機械、電子機器など高付加価値製品。しかも大量に輸出しています。

一方で米国から輸入しているのは、航空機や農産物など。もちろん航空機などは高額ですが、大量に輸入する必要はありません。また、農産物も米などは数量を限定しているため大量にとはいきません。そのため、日本が黒字、アメリカが赤字となるわけです。

数量を限定されなかったことも大きい評価ポイント

さて、もうひとつ。

今回の関税交渉で輸出量(アメリカにとっての輸入量)に制限がなかったことも評価が大きいポイントなんです。

何しろイギリスの自動車は10万台を上限に関税引き下げとなっていたからです。そして、日本にも台数制限を設けるではないかと言われていたのです。

日本は1970年代に自動車生産が米国を抜いて世界一になりました。アメリカでも日本車が売れまくったんですね。

それに怒った米国車メーカーに対応するかたちで、日本政府と自動車業界は、対米自動車輸出台数を制限する「自主規制」を導入することになりました。何と、1981年から1993年まで続いたのです。

その二の舞を避けるために、かなり難しい駆け引き・・・ディールをしたんですね。

だから、今回の関税15%は、高く評価されてしかるべきものなんです。